くれぐれも英語にはご用心ください (1996年)

○浅草・もり銀という銀製品のお店で品を選んでいたときに、ふと、脳内を次のエッセイ(紀行文)が流れた。くれぐれもご用心ください> 恒例のアメリカ研究旅行は、今年は、次女のイギリスでのホーム・ステイが急遽入ったため中止。やや傷心の細君に、「それ…

ウージェーヌ・シュー『イディオ』 (1832年作)

ウージェーヌ・シューの「イデオ」(1832) ウージェーヌ・シューが代表作『パリの秘密』のなかで一大棄民施設ビセートル救済院内の精神病棟に収容されている白痴〔イディオ:idiot)を詳細に描写し処遇について言及している。じつは、彼はその問題にかねてか…

バーゲンと乞食(2001年)

バーゲンと乞食 今パリは冬期のバーゲン真っ盛り。年に2回あるバーゲンはパリの風物詩の一つに数えられる。それぞれの店のウインドウガラスにはSoldesと大きな張り紙がしてある。ぼくは昔から、「特価品」と「特売品」の違いが分からないのだが、パリのSolde…

古代にロマンを求めた頃のことの巻〜木造赤坂遺跡を訪ねて〜

1. お福ちゃん、猩ちゃんを伴って歩いた旧久居市内の街々は「ぼく」が懐に抱かれて育ったところ。いわば羽ばたきをはじめる前の幼鳥と母鳥の如くである。やがて幼鳥は、母鳥の懐から抜け出し、母鳥の視界に収まらない活動をはじめる。 高校生となった「ぼ…

日本育療学会小規模研修会(2008年度)における拙報告へのお二人の感想

小規模研修会参加報告 長谷川千恵美(日本大学非常勤講師) 研修会では、知的障害児教育の開拓者であるエドゥアール・オネジム・セガン(1812-1880)の軌跡を、川口幸宏氏(学習院大学教授)が現地で調査入手された豊富な史資料・写真と解説に導かれながらた…

(旧稿)ある日ある時のパリ歩き <9区 ピガール通り>

オネジム=エドゥアール・セガン(1812年フランス生まれ〜1880年アメリカで没す)が1841年に白痴・痴愚の子どものための教育施設を開いたピガール通り(パリ9区)近辺は、パリ・コミューン(1871年)を研究するぼくにとってもなじみの地名である。パリ・コ…

「セガン」に向かい合って、10年―私と「セガン」

I 2005年7月2日、清水寛氏の編著書『セガン 知的障害教育・福祉の源流―研究と大学教育の実践』(全4巻、日本図書センター)出版と、同書を対象として日本社会事業史学会から文献資料賞が授与されたことをお祝いする会が、東京・豊島区の学習院大学文学部大会議…

2008年10月18日 育療学会小規模研究会 報告のためのレジメ・基礎資

2008年10月18日 育療学会小規模研究会 報告のためのレジメ・基礎資料 学習院大学 川口幸宏はじめに 人間の子どもとして生れ落ちた人びとの中で、人間として扱われず、育てられず、ある者は闇に葬られ、ある者は「村」の外に棄てられ、ある者は生涯を囲いの中…

ラ・コミュヌ・ド・パリ研究会 O先生1

たいそうご無沙汰いたしております。暑中見舞いの書状に添えて「新聞」38号39号をお送りくださいましてありがとうございました。着実に「パリ・コミュヌ」研究をすすめられておられるご様子に、大いに学ばせていただいております。 さて、私が先生の「新…

(再録)H 氏へ/われわれが14ヶ月前から為してきていることの要約/1838年2月15日から1839年4月15日まで

原著 E. Seguin 翻訳 川口幸宏要約と結論1. 三つの能力、すなわち活動、知性および意志は、人に備わったその他のあらゆる能力を支配する。私がこのように三つの能力を割り振った順は、市井の人に対する影響のその順序とはまるで正反対を表しているが、われ…

(翻訳紹介)「教育の自由」1850年1月15日立法院議会におけるヴィクトル・ユゴーの演説

訳者 川口幸宏翻訳紹介にあたっての若干の解題 原題を LA LIBERTÉ DE L’ENSEIGNEMENT とするヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo)の演説は、1850年1月15日の立法議会(Assemblée législative)においてなされたものである。この演説は、フランス共和国史における教…

「いじめ」解決を目指して

ある「いじめ」の相談 199*年11月末、G学院に籍を置く大学院生・江藤志津の訪問を受けた。相談の要点は、都内某区の公立中学校に通う1年生の弟・和夫が、学級内で複数の同級生から暴力的いじめを受けているが、どうしたらそのいじめを無くすことができるか…

古き時代の塵を求めて

研究者にとって、オリジナル資料とコピー資料とを比べれば、天と地ほどの差異がある。パリ・コミューンを興味本位で追いかけ始めた頃には、たとえコピー版であろうともその時代の息吹を、真新しい紙と写真製版のためにすり減った活字に、心を躍らせていた。…

6351はテントウムシ

1. ぼくは今、左手に、幅1.5センチほどの紙製の腕輪をはめられている。これには、ID:******* 瀬田康司様 6351 MA型Rh+ などと記入されている。この腕輪は「ハサミで切らない限り、はずせません」との看護師の言葉にあるごとく、この病院におけるぼくの識…

ずっと昔の講義日記 「リョウ物語」

リョウ物語 講義は数多くのドラマと逸話を生み出します。今回はそれにまつわるお話し。∵起 教育原理(現:教育基礎)の受講生の一人、かわいいリョウちゃんと一ヶ月ぶりに教職課程事務室で顔を合わせました。その時の会話より-------。 僕「よう、元気?」 …

(旧作)もんじゃ食べるはスピリッツ

(1) 昨年暮れ、12月22日、例によって例の貴婦人−トドちゃん−と、「思いつき浅草もんじゃの会」を催した。 「思いつきというのはよろしくありません、何でも計画的に行うのが人間として徳のある生き方なのです。」とばかりの教育に辟易させられて生き続け…

旅はドタバタ… ジャマイカ紀行 (1)

昨夜の妻と上娘の帰宅を午前0時まで待っていたが、それぞれ研究会や仕事の関係があったのだろう、ぼくは先に眠りについた。何といっても朝6時には起き、旅の最終チェックをし、ネコたちを動物病院に預けに行かなければならないのだ・・・。 目が覚めると、何…

鶴福猩が古代を旅した  松阪編

☆松阪ほど近くの車中にて進行方向右の車窓向こうの山並みを指差しして(中世の巻) 「白米城」と呼ばれる城趾があるのですよ。山のてっぺんが城垣の形をしているのがあるでしょ?水攻めにあったのだけれど白米を流してまだまだ水があると思わせた、という話…

「1843年のセガン」 第1号

まえがき オネジム=エドゥアール・セガン(Onésime Édouard Séguin 1812-1880)は、知的障害教育を開拓した人として、教育界においてはほぼ教養的な人物として知られている。しかし、その人物像が明確に描かれてきたとはとうてい言えない。彼自身がまとまった…

旧稿「2009年4月26日 晴れ」の再考

1.旧稿より ピガール通り6の教育施設(これまで学校と訳してきたが、正式機関名はcours)の設置場所について調査。ペリシエ等の『子どもの精神医学の開拓者 エドゥアール・セガン(1812-1880)』により以下のことが分かった。 建物は18世紀のもので、2棟の母…

Abel Étienne Louis TRANSON (1805-1876)

Gendre de Louis Marie François Dessales Desnoyers (1787-1846 ; X 1806), dont une autre fille avait épousé Louis Marcellin Tournaire.Ancien élève de Polytechnique (promotion 1823, sorti major sur 95 élèves) et de l'Ecole des Mines de Paris …

セガン1839年実践記録(第1教育論) 訳文と解説

われわれが14ヶ月前から為してきていることの要約 1838年2月15日から1839年4月15日まで 川口幸宏訳要約と結論 1. 三つの能力、すなわち活動、知性および意志は、人に備わったその他のあらゆる能力を支配する。私がこのように三つの能力を割り振った順は、市…

アパルトマン界隈事情

ぼくの住むアパルトマンはパリ11区。中国人たちが衣服問屋の店をずらりと並べている。ドアには「小売りはできません」という断り書きがどの店にも張られているので、ぼくには縁がない。その道から小路に入ると、バスチーユ広場に続く道への近道とあって、し…

ある日ある時のパリ歩き <9区 ピガール通り>

オネジム=エドゥアール・セガン(1812年フランス生まれ〜1880年アメリカで没す)が1840年に最初の教育施設を開いたピガール通り(パリ9区)近辺は、パリ・コミューン(1871年)を研究するぼくにとってもなじみの地名である。パリ・コミューン下で生きる一…

(旧稿)さわやかな秋の一日の散歩にて、つい長舌

秋はさわやかに決まっている。そういう季節感覚を染みこませてパリにやってきた身にとってみれば、「夏過ぎて秋来るらし」なんてのんびりと構えていたら、間違いなく風邪を引いてしまうだろう季節の移り変わりの足の速さが気に入らない。現に、数日来、室内…

ある教育対話

川口 幸宏 ディスク内データの整理作業中。これ、削除しようかどうしようか迷っています。 「大学教育はきわめて実技実践的に成り下がっています。頭を使うのが嫌な学生たちはとても元気で盛り上げてくれます。」西村 敏雄 最近の大学改革の方向が文系には冷…

2012年セガン生誕200周年記念国際シンポジウム参加の旅日記

2012年 10月24日(水) 晴れ→曇り 6時過ぎ起床。7時前に自宅を出る。東武野田線新柏より新鎌ヶ谷、新鎌ヶ谷からアクセス特急にて成田第二ターミナル駅。空港で姫様(幻戯書房編集者三好咲さん)と落ち合う。今回の旅の同行者を務めてくださる。 11時10分発の…

卒業生S君の訪問を受ける

研究室で頭を痛める仕事に疲れほっと一息を入れているぼくの惚けた顔の真横に、ヌゥッと顔を出したのはS君だった。ぼくは、まじめに仕事に熱中しているとき(これはあまりない)やPCのカードゲームに熱中しているとき(これがほとんど)、放心状態にあるとき…

「筏師哀歌」再録

「仕事歌」というジャンルが確かにあった。それが人々を繋ぐ絆でもあった。主として第一次産業、第二次産業地帯。「都市化」「近代化」が失っていったものは「仕事歌」。具体によって人々が繋がるこの紐帯は強い。拘束性すら持つ。だから、「近代化この良きも…

ウージェーヌ・シュー「idiot(イディオ)」

パリでの遊興に倦んで、私は、静けさを求めて、レズの森近く、**(<ママ>)シャトーに出かけた。そこでの滞在は、不快感とか束縛感とはまるで縁遠く、景色の美しさや宿の主人の親切なもてなしに魅了された。食事時に集まりさえすれば、誰もがそれぞれ自分…