ある教育対話

川口 幸宏
ディスク内データの整理作業中。これ、削除しようかどうしようか迷っています。
「大学教育はきわめて実技実践的に成り下がっています。頭を使うのが嫌な学生たちはとても元気で盛り上げてくれます。」

西村 敏雄 最近の大学改革の方向が文系には冷たく、実学中心に編成しようとしていると聞いたことがあります。

西村 敏雄 文学部や経済学部などは、産業にどれだけ寄与するか等で、昔の専門学校に特化してはどうかなども話題に出ているそうですね。

川口 幸宏 教員養成は世界的流れとして修士号を持つ人材を求めています。ただし、教師修士というような専門職修士であって、かつての修士とはまったく異なります。そういう意味でも、教員養成も、完全に高度なという形容がつけられた専門学校化が進められています。

西村 敏雄 教員養成に関わっては昔の師範学校な学校を作るとなれば、戦後の大学で教員養成をするという大原則が崩れることになります。

川口 幸宏 その通りです。大学で開放制の原則で、という戦後が終わらされようとしています。

西村 敏雄 教員養成のカリキュラムの中に指導案の書き方や学級経営のイロハを入れるのは当然として、その他に教育原理や哲学なども入れないと、現場にいる多様な子ども指導出来ないと思います。

川口 幸宏 私のような者の出番はなくなりますね。

西村 敏雄 でも実際に教員になることを希望して入学する学生は、輪切りにされた受験競争の中で育って来て、考えるよりもより早く効率的に回答出すように訓練されて来たので、自分の頭で考えるのは苦手のようです。

川口 幸宏 その頭を一度ぶっ壊す必要がありますね。それが哲学であり、歴史であり、異文化であり、いろいろ。

西村 敏雄 でも、先生。こんな若い人が教師になっても子どもと現場で向かい合ううちに、すごくアグレッシブな先生に変わって行きますよ。

西村 敏雄 余りにも活動すぎてある職場では、浮き上がってしまい、3学期を休んでしまいましたけどね。

川口 幸宏 こんな笑える実話があります。「自分の考えをまとめなさい」(私) 「先生、ヒントを教えてください」(学生) 「君の考えのヒントをぼくが教えられるわけないだろ」(私) 「じゃ、どうやって成績つけるんですか?」(学生) 「考えの要点が基本的な教養や知識に支えられているかというのがその大きなポイント。」(私) 「客観的な考えはなんですか?」(学生) 「ひとの考えに客観だなんてねえんだよ!」(私)・・・・

川口 幸宏 「教師は教壇で育つ。」ですね。

西村 敏雄 先生方の日々の実践は、そこの校長によって随分、影響受けるなあと思います。

川口 幸宏 学級通信提出義務を課したり、検閲したりする校長の下では…と思わされる実例に数多く出会ってきています。

西村 敏雄 先生の実話に関係して、現職15年目の理科の女先生が、学生にアドバイスをしていました。先生になったら分からないことや困っとことがあれば必ず相談して!待っていても解決しません!と言っていました。

川口 幸宏 「関係性の構築」ですね。

川口 幸宏 私は授業の時に「隣の人は教材」と言っていました。

西村 敏雄 先生の評価って大変。ある職場では、伸び伸びと実践をしていてやるじゃないか、と思っていても、職場が変われば、あの先生、子どもとの距離が余りにも近過ぎと、問題教師にされます。

川口 幸宏 「教科書」や「指導資料」だけが学びの材となるのではない、自分もそして自分を存在させる環境も、とりわけ体温を感じる人間関係も、学びの材になります。このように考えると、授業はどうあったらいいでしょうね、と問題提起をするわけです。

川口 幸宏 「近い」「遠い」の感覚も、見ている人の主観に過ぎませんからね。本当は評価的説明になっていない。子どもが学んでいるプロセスや結果を見るべきだと思います。

西村 敏雄 職員室で関係性の構築は、その先生に求めても先に進まないので、まずは、校長がそれを組織しなければ、学校全体としては良くならないですね。

川口 幸宏 職員室が「学びの関係づくりの場」ではなくなって来ていると言われて久しいですから、やはり校長の出番となってしまうのでしょうか。

川口 幸宏 そういえば、職員室の各先生方の机の周りは、「城壁」(笑) で囲まれている光景が多くなりました。

西村 敏雄 校長だけでは無理ですが、少なくともそこで働いている先生方には、校長先生の姿勢がストレスを軽減させると思います。

西村 敏雄 机の上が雑然と散らかしていた時、教頭先生が突然来て「一緒に片付けようか」と笑いながら注意されたことがあります。この先生、酔っぱらうと「酒飲みの美学」なんて訳の分からんことを言って絡んで来ました。懐かしい思い出です。 笑

川口 幸宏 1980年の日教組全国教研の生活指導分科会で基調報告を命じられたのですが、その時に、「天の岩戸入り型教師」「三猿教師」という、かなりきつい教師批判をしました。関係性の構築を積極的に拒否する教師がどんどん出現し始めていたのですね。社会学的には、社会現象として、「群れの中の孤独」が言われてました。我が社会が人間関係を自主的に構築することが困難になったのも、この頃からですね。

西村 敏雄 最近で言えば東京で始まった主幹教諭など職員室に縦割りの職階制度が出来たのも先生方の関係性の構築が困難になった原因です。

川口 幸宏 教頭、主任、主幹… これ、全部、「任命」ですもんね。

西村 敏雄 視点を変えて。親や子どもが教師を見る目が変わってきたとつい最近、本屋で立ち読みした本に書いていました。

川口 幸宏 「派遣教師」も合法になりましたし。「派遣教師」の職務管理は学校側にはなく、派遣会社にあります。

西村 敏雄 学校をコンビニのように見て、教師が店員なのだそうです。

川口 幸宏 人間を育てる仕事をする人が、縦割りで管理され、横の繋がりを禁じられ、細切れで時間だけを過ごす立場に置かれ…。「教育界」とはとても誇りを持って言えませんね。

西村 敏雄 すると保護者や子どもは、学校で行われる授業がコンビニで買う品物と同じで、出来るだけ安く買う、学校の授業は最小の努力で最大のサービスを得るよう行動するというものです。

川口 幸宏 「学校評価」「教員評価」が「外部機関」の手で行われるゆえんですね。

西村 敏雄 そうなんですよ。教員の仕事が知識を切り売る仕事ぐらいにしか理解されていないということですよ。

西村 敏雄 イメージするとこんな感じです。

川口 幸宏 回転寿司・・・・

西村 敏雄 自分の好みのお寿司は食べれるけど、握っている人の顔は見ることが出来ない。もっとも握っているのはロボットですけどね 笑

川口 幸宏 しゃりは型入れで作ってある、ネタは機械で切ってある、現場ですることは客にいちゃもんつけられないように、両者を組み合わせる、お味はいかがですか、と問うこともない…・

川口 幸宏 回転寿司も関係性の断絶から生み出されたものですものね。

西村 敏雄 教師の仕事が回転寿司のようにご注文の商品が間もなく到着します、なんていうことになると世もお終いです 笑

川口 幸宏 西村先生、「ご注文の学力つけたお子さま、まもなくできあがって参りますよ。」と言うことを実施している学校に人気があるじゃないですか、「学校選択制」。

西村 敏雄 政治家の頭の中にあるのは、この回転寿司のイメージではないでしょうか 笑

川口 幸宏 数値目標をあげて進路指導に血眼になっている中等教育

川口 幸宏 まさにおっしゃる通りですね。学校は企業人材製造派遣業ですから。

西村 敏雄 公設民営の学校もこのような学校かも 笑

西村 敏雄 こちらは、また、雨になりました。ハウスを閉めに行って来ます。

川口 幸宏 行ってらっしゃい。手間暇かかるけれど、それだけ、愛情が深く、濃くなりま

横山 豊 お二人のコメントを読んでいて、学校の未来を見ているようでした。でも、それらの中には既に現実になっていることも多いわけですね。